「幸甚」の意味と正しい使い分け、上手な使い方
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「幸甚」の意味と正しい使い分け、上手な使い方
「幸いです」のワングレード上の表現=「幸甚」
ビジネスメールや文書で誰かにお願いごとをする際に、定番の言い回しとして「〜していただけると幸いです」が用いられるケースがよくあります。
「幸いです」は「自分にとってうれしい・幸せなことだ」という意味を持ち、「そうなってくれたら運が良い」というニュアンスも含まれています。「助かります」と比べるとはるかに丁寧な表現ではあるのですが、お得意先や目上の方が相手の場合は、「幸いでございます」や、
「思います」の謙譲語である「存じます」をくっつけた「幸いに存じます」を使います。
そして、もうワングレード上の表現として、ぜひ一度トライしてみていただきたいのが「幸甚」という言葉です。
「この上なくありがたい」という気持ちを伝える「幸甚」
改まった商用の手紙や文書などで、「幸甚です」「幸甚に存じます」という表現を目にされたこともあるかと思います。もともとは手紙言葉であり、昨今ではビジネスメールでもよく用いられるようになってきました。
「幸甚」とは、文字通り「甚(はなは)だ(=普通の程度をはるかに超えて)幸せ」の意を表す、「幸福の最上表現」です。相手に対して敬意を払う表現でもあるため、「幸いです」の代わりに「幸甚です」を使うことによって、「この上なくありがたい」という想いが強く表現されます。また、より一層気持ちをていねいに表したい場合は、「幸甚に存じます」「幸甚の至りです」という最上級の言い回しもあります。
「依頼」「感謝」「贈り物」の場面でそれぞれ使われる「幸甚」
「幸甚」という言葉には三つの使われ方があります。
一つは、目上の方や立場が上の取引先などに対し、自らの要望や依頼事項を丁寧に伝える場合です。
相手に望みを叶えてもらえると「この上なく助かる」という気持ちが、そこには込められています。
(例)
「ご連絡をいただけると幸甚に存じます。」
「ご来臨くだされば幸甚の至りに存じます。」
二つめは、相手からの配慮や心遣いに対する自らの「深い感謝の意」を伝える場合です。
(例)
「お招きいただき幸甚に存じます。」
「お気遣いをいただき幸甚の至りです。」
そしてもう一つは、目上の方などに「贈り物」をする場合です。
贈る相手にぜひ喜んでもらいたいという想いです。
(例)
「お気に召していただければ幸甚に存じます。」
「ご笑納いただければ幸甚に存じます。」
相手に応じた「使い分け」と、使いすぎないことが肝要
「幸甚」は「これ以上ありがたいことはございません」という意味合いを伝える表現なので、使いすぎると他人行儀なイメージや大げさな印象を与えかねません。距離が近い相手や親しい関係なら「助かります」や「ありがたいです」、会社関係の相手などには「幸いに存じます」、目上の方の場合は「幸甚に存じます」というように使い分けが大切です。
贈り物に添える文面に使う場合も同じです。ごく親しい相手に対しては、丁寧さがむしろ嫌味に感じられてしまう恐れがあります。こちらも「幸いです」「何よりの幸せです」などの表現と上手く使い分けてください。
また、使いすぎると仰々しくなり硬い印象を与える表現であるため、相手に「くどい」と思われないよう、同一文章内での「幸甚」の使用は一回にとどめるように気をつけましょう。
堅苦し過ぎるのも…という人のための「幸甚」の言い換え方
相手との心理的な距離感をつかみかねていて、「幸甚」という言葉は少し堅苦し過ぎるかも…と不安に感じる場合は、「幸い」「ありがたい」「うれしい」などの言葉を使った下記のような表現をお勧めします。
(例)
「ご連絡をいただけると幸いです。」
「ご来場くださればありがたく存じます。」
「お招きいただき光栄に存じます」
「お気に召していただければうれしい限りです。」
なお、目上の人や上司に叱責を受けたときに、「お許しいただけるなら幸甚です」などと用いてしまうと、かえって相手を馬鹿にしたような印象を持たれる恐れがありますので、不用意に使ってしまわないように気をつけましょう。
文豪たちの作品に見る「幸甚」の使われ方
少しかしこまった形で用いられる「幸甚」ですが、昔の文学作品では時折見かける表現でもあります。いくつか例を挙げてみますので、参考にしてください。
「大方の諸君子にして、予が常識の有無を疑はれなければ幸甚である。」(芥川龍之介「きりしとほろ上人伝」)
「楽な気持で推理をたのしみながら愛読をたまわれば幸甚です。」(坂口安吾「明治開化 安吾捕物帖」)
「全文或いは概要を貴誌に掲載して貰へれば幸甚です。」(萩原朔太郎「蒲原有明に帰れ」)
「各地方小学教師のために備考の一助ともならば幸甚のみ。」(福沢諭吉「小学教育の事」)
「すでに求め終わっているのなら幸甚である。」(有島武郎「片信」)
「今後の私抄について彼我対照して戴ければ幸甚である。」(北原白秋「夢殿」)
「賢明なる読者諸君に対して、いささかでも反省の資料になってくれたら幸甚である。」(太宰治「花吹雪」)
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